長内 智 選手(デフ陸上競技/東京パワーテクノロジー株式会社)インタビュー

更新日:2024年12月16日

ページ番号: 19909

東京2025デフリンピックへの出場が決定した長内智選手(デフ陸上競技/東京パワーテクノロジー株式会社 名前の読み方はおさないさとし)。日本で初めて開催されるデフリンピックに向けて、お話を伺いました。
※本記事は2024年11月26日と2025年9月4日に行ったインタビューを基にしたものです

駆ける姿で届ける想い

コミュニケーションの壁にぶつかった中学生時代
長内選手幼少期

小学生の頃、バスケットボールをしていた兄の影響で、私もバスケを始めました。中学校でもバスケ部に所属しましたが、私は先天性の感音性難聴という障害があり、幼い頃から補聴器を使用しています。補聴器を通すと、聞こえる音すべてが大きくなります。体育館ではボールの弾む音や応援の声などが混ざり合い、監督の指示が聞き取りづらく苦労しました。

また、応援の声出しのタイミングがわからず、周囲から責められることもあり、辛かったですね。結局、聴覚障害について仲間にうまく伝えることができず悩んだ末、中学2年生の時にバスケ部を退部しました。「聞こえないこと」が自分にとって大きな壁のように感じられた瞬間でした。

その後、個人競技の方が向いていると思い、陸上部に入りました。走ることが得意だったこともあり、すぐに夢中になりましたね。顧問の先生は、一対一で話を聞いてくれる理解のあるかたで、安心しました。陸上を始めて数か月後には、千葉県総合体育大会に出場し、800mで優勝。その結果、全国大会へも出場できました。そのことを両親に話すとびっくりして……。その表情を見たとき、とてもうれしかったんです。この経験が、「もっと頑張ろう!」と思うきっかけになりましたね。

とはいえ、苦労もありました。駅伝の練習中、後ろから車が来ることに気付かず怖い思いをしましたし、大会当日が雨だと、補聴器が濡れて故障してしまうので外さなければならず、スタートの合図が聞こえなくなってしまいます。そういう時は、他の選手が走り出すのを目で確認してからスタートしていました。

「自分らしさ」伝える使命
長内選手競技の様子

大学で一度陸上を離れ、就職してショッピングモールで受付の仕事を経験しました。店内には常に音楽が流れていて、補聴器を通して聞こえる音が混ざり合ってしまい、お客様の声を聞き取ることが難しい場面が多くありました。仕事上のミスではなく、「何で聞こえないの?他の人に代わって!」というクレームを受けたときは、本当に悔しかったです。聞こえないことが理由で責められる現実に、「生きにくい世界だな」と感じました。

そのような経験から、自分と同じような辛さを抱える人たちが少しでも生きやすくなるように、デフ陸上の世界で活躍し、聴覚障害についての情報を発信することが自分の使命だと考えるようになりました。障害がある子どもたちや若い世代に、「自分らしく生きていいんだよ」と伝えたい。そのために、競技を通して多くの人たちにメッセージを届けたいと思っています。

例えば、「もし自分に障害があったら、どう声をかけられたら救われるのか、どう声をかけられたら傷つくのか」——それをみんなで考えることが、社会を変える第一歩です。

「お互いを知ること」「相手の立場になって考えること」この2つが、障害の有無に関わらず誰もが生きやすい世界をつくる鍵だと自分は思っています。

ホームグラウンド・岩名陸上競技場に新たな歴史を刻むために
長内選手が話す様子

デフ陸上の試合では、補聴器を外すことがルールで定められています。普段の練習では補聴器を付けて走っていますが、それに慣れてしまうと、補聴器を外した時に地面を蹴るリズムがつかみにくくなり、左右のバランスが崩れて調子を落としてしまいます。聞こえていれば無意識にできていたことが、聞こえないことで難しくなる――音の大切さを改めて実感しますね。

今大会で出場する800mという種目では、スタートから約100mを過ぎると、選手たちはレーンに関係なく内側に入っていくルールがあります。しかし、お互いに足音が聞こえないため、周囲の選手の位置がわからず、接触して転倒するリスクがあるので、常に気を使いながら走る必要があります。競技中は、そんな位置取りの駆け引きにも注目してもらいたいですね。

長内選手

岩名運動公園陸上競技場(現・小出義雄記念陸上競技場)は、私にとってたくさんの思い出が詰まった、特別な場所です。中学時代からこの恵まれた環境をホームグラウンドとして、日々練習を重ねてきました。高橋尚子さんや小出義雄監督も練習した歴史ある競技場で、私も新たな歴史を刻みたいと思っています。

佐倉市には「育ててもらった」という思いがあり、本当に感謝しています。一昨年には、佐倉市で子ども向けの陸上教室を初めて開催しました。それが佐倉への恩返しの第一歩になったと感じています。子どもたちは純粋に話を聞いてくれて、まだまだ伝えたいことがたくさんあります。一人ひとりとの縁を大切にしながら、これからも経験を伝える活動を続けていきたいです。

東京2025デフリンピックの舞台で伝える感謝の気持ち
長内智選手

東京2025デフリンピックは、自分にとって最大のチャンスだと感じています。日本での開催という特別な舞台で、多くの方々に自分が全力で走る姿を見てもらえることが本当にうれしく、ワクワクしています。

中学時代から、両親はどんなに遠くても大会に駆けつけてくれて、応援し続けてくれました。今も変わらず見守ってくれていることに、感謝の気持ちでいっぱいです。これまで支えてくださったすべての方々の思いを背負い、自分の力を出し切ることで、応援してくださる皆さんに「楽しかった」「ありがとう」と心から言えるようなレースにしたいです。

障害の有無に関係なく、誰もが夢を追いかけられるということ、そして障害は壁ではなく、その人の個性であるということも、多くの人にメッセージとして伝えたいと思っています。そして、このデフリンピックという素晴らしい大会の存在を、多くの人に知ってもらい、関心を持ってもらえるきっかけになればと願っています。

この記事に関するお問い合わせ先

[福祉部] 障害福祉課
〒285-8501 千葉県佐倉市海隣寺町97
電話番号:043-484-4164
ファクス:043-484-1742

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